読書百景

小学館のWEBメディア「読書百景」|紙、電子、点字、オーディオブックなど、本の味わい方は人それぞれ。これからの読書のかたちを提案します|ノンフィクション、エッセイのほか新刊情報も|毎週月曜、時々金曜更新|お問い合わせ→http://p.sgkm.jp/dokushohyakkei

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  • 【有料】一九八四+四〇 ウイグル潜入記(西谷格)

    本連載は、上海在住経験があり、民主化デモが吹き荒れた香港のルポルタージュなどをものしてきた西谷格氏による、中国・新疆ウイグル自治区の滞在記です。少数民族が暮らす同地は、中国当局による監視が最も厳しい地として知られています。

  • エッセイ

    ご自身の経験や研究に基づく作品を中心にアップしています。

  • 編集日誌

    編集者のつぶやき、ぼやきを中心に綴っています。

  • 読書バリアフリー

    紙の本、電子書籍、オーディオブック、点字…本の味わい方は人それぞれ。これからの読書のありかたや、読書バリアフリーに関する話題を発信します。

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    ルポルタージュや調査報道など、取材を伴う作品を中心にアップします。

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【有料】一九八四+四〇 ウイグル潜入記(西谷格)

本連載は、上海在住経験があり、民主化デモが吹き荒れた香港のルポルタージュなどをものしてきた西谷格氏による、中国・新疆ウイグル自治区の滞在記です。少数民族が暮らす同地は、中国当局による監視が最も厳しい地として知られています。

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  • 9本
  • ¥500

西谷格「死体のように寝転ぶ男たち」一九八四+四〇 ウイグル潜入記 #9

ウイグル族の民家  ビリヤード台は時間貸しで、そろそろ店を出る時間になっていた。 「モスクを見たいんだけど、この近くにあるかな?」 「いくつかあるよ。案内する」  ビリヤード場を出て、雑貨屋や食堂などが並ぶ道をしばらく歩くと、「愛党愛国」と書かれた横長の赤い看板と、中国国旗を高く掲げた茶色い門が見えた。門は彫刻が美しいのだが、看板のほうが明らかに目立っている。入り口には「自治区和諧寺観教堂」と金属プレートが貼られていた。写真を撮ろうとすると若者は「あまり撮らないほうが

西谷格「コーランはすべて燃やした」一九八四+四〇 ウイグル潜入記 #8

◆4章 ヤルカンド「二日月」のレストラン  ホータンで見られそうなモスクは回れたので、次の街を目指すことにした。オーストラリア戦略政策研究所のウイグルマップで破壊されたモスクや収容所の多そうな街に目星を付け、莎車(ヤルカンド)という小さな町を選んだ。それらを意味する赤や黄色の丸印が、地図上でとりわけ多かったのだ。  ホータンからヤルカンドまでは、汽車で3時間ほどだった。少し贅沢かとは思ったが、一等の寝台車を予約した。個室の4人部屋の上段ベッドから下を見下ろすと、3人の中高

西谷格「"神なき宗教"を信じる人びと」一九八四+四〇 ウイグル潜入記 #7

「あなたはアッラーを信じていますか?」  ホータンでもこれまでと同様、店先などで出会ったウイグル人と挨拶をしながら中国語で「イスラム教を信仰しているか?」と質問したのだが、ほとんど会話は成立しなかった。中高年以上は中国語をほとんど解さないため元より意思疎通はあきらめていたが、20代ぐらいのある程度中国語が通じる相手に的を絞っても、どうにもうまくいかないのだ。軽い雑談を交わして中国語が通じることを確認した上で、明瞭な発音で「イスラム教を信じていますか?」「モスクに行くことはあ

西谷格「深夜1時半にドアを突然ノックされ…」一九八四+四〇 ウイグル潜入記 #6

◆3章 ホータンモスクは検索できず  乗客6人を乗せた乗合タクシーは1人65元(約1300円)で、3時間ほどで南疆の小都市・和田に到着した。ウルムチで出会ったウイグル人の男性が、南部のほうが独自の文化が残っていると、言っていたからだ。時刻はすでに午前1時近かった。  バスの停留所で降ろされると、腹が出て固太りした小柄なウイグル人風の男性が「どこまで行きたいんだ?」と声をかけてきた。タクシーの客引きのようだ。ホテル名を告げて助手席に乗ると、ワイルド感のある体臭と腐ったニンニ

エッセイ

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  • 6本

野口あや子「とりあえずride on してこのままgo on」天才歌人、ラップ沼で溺れ死ぬ #2

◆今月の一首 Awich のtype beat に声を乗せくずし字のごとく声をくねらせ  九月、私は中部国際空港にうずくまっていた。久しぶりの遠出。しかもいきなりの飛行機。しばらくは男性の声も怖くてちょっとした外出さえままならなかったというのに、急にAwichの歌詞に出てきた「うるまの煙草」を吸うために沖縄? しかも行くといっても沖縄でAwichのライブがあるわけでもない。しかもそのあと沖縄に興味を持って調べまくったせいで、勢い余ってスキューバダイビングの体験まで予約して

野口あや子「ファッキンファッカー」天才歌人、ラップ沼で溺れ死ぬ #1

◆今月の一首 女のくせに歌人なのにと言うやつらバイブスぶち上げかましますわよ 野口あや子  蒸し暑い夏の金曜日、京都のロームシアターで蹴鞠と雅楽と和歌の披講が行われる和歌の名門「冷泉家」の七夕の舞台「乞巧奠」の幕間、私は猛烈にある単語をGoogleでサーチしていた。最初は「京都 金曜 サイファー」。それでも出てこず、少し範囲を広げて「関西 金曜 サイファー」。一見ヒットしたけれどこれは……違う。あの有名な梅田サイファーのライブイベントだ。定期的に行われていそうな、もうち

アンナ・ツィマ「賭け布団」ニホンブンガクシ 日本文学私 #5

 誰にも教えたくない、心の中に隠しつづけたい話はどんな人にでもあるだろう。いつかバレたら、と考えるだけで、冷たい汗が出て心がドキドキしはじめる。だから絶対に誰にも言わない。  例えばこのような話。  夫と一緒に日本に来てから2年、私たちは埼玉県朝霞市から都内に引っ越すことを決めた。新しい住まいは、家主が手入れをしない庭に囲まれ、70年代に建てられた木造アパートの一階だった。冬は非常に寒く、畳や壁の隙間から冷たい風が吹き込む。夏は死ぬほど湿気で暑く、ゴキブリはもちろん、さま

アンナ・ツィマ「迷い姫」 ニホンブンガクシ 日本文学私 #3

ベルリンの朗読会  私のデビュー作、『シブヤで目覚めて』の最初の翻訳はドイツ語版だった。2019年にそれが出版された際、私は夫と2人でベルリンに赴くことになった。出版社のオーナーに誘われたのだ。同社はけっして大手ではない。数人の文学愛好家が夜も寝ずに必死に小説を訳したり、編集したりしているような印象が強かった。東ドイツ生まれのオーナーは社会主義時代にチェコスロバキアを何回も訪れ、禁断のライブに参加したり、お酒を飲んだりしていたらしい。とにかくチェコに強い関心を持ち、ベルリン

編集日誌

編集者のつぶやき、ぼやきを中心に綴っています。

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  • 7本

編集日誌#7 連載第2話

「黒い自分を持て余す」。 新連載『黒い感情と不安沼』第2話のキーワードは、まさにこれです。 ひとの成功を素直に喜べない。 誰かの活躍の報に触れると、「心に障るんです、ザラッと」と、今回の患者さんは言います。 ああ、いい大人なのに、みっともない。 そんな自分を受け入れられなくて、そんな自分が許せなくて、体調までもが悪くなる。 その状態を、鍼灸師のあつこ先生がズバッと解説し、そしてこう言うんです。 ・・・・・・・・・・・・・・・どう言うかは、本編をお読みください! あつこ先

編集日誌#6 新連載のテーマは〝ネガティブ感情〟のトリセツ

黒い感情と、不安沼。この連載に登場する女性たちは、まんま、自分だなあと思います。いつもわけのわからん不安を抱えていたり、「ちゃんとやらなきゃ誰からも認められない」と勝手に自分を追い込んでイキッたり、自分のルールの外側にいる(しかもなんだか楽しそう)人を「許せん・・・・!」と感じたり。 だから私はいつも背中がこっているし、ときどき足もつる(今朝も寝返りを打った瞬間に左足のふくらはぎがつり、激痛で覚醒した)。そして不安という沼から湧き出るアグレッシブな感情は、やがて血糖値スパイ

編集日誌 #5 装丁なんてそんなもの?

 特別な用事がない限り普段は訪れない下北沢は、降り立つ度に装いがかわっています。再開発が加速度的に進んでいる。とはいえ2ヶ月ほどの間に、打ち合わせを含めると10回弱も訪れると、ちょっとは街に馴染みが出てきます。  ブックデザイナーの鈴木成一さんによる「装丁の学校」が8月7日に最終授業を迎えました。作家・横関大さんの新作『誘拐ジャパン』のカバー案を題材に、実践形式で教えるワークショップです。  その模様を同時進行的に伝えた連載を一読してもらえば、全5回の授業がデザイナーやイ

編集日誌 #4 装丁家は読む

 昨日、ついに鈴木成一さんの「装丁の学校」(本屋 B&B)が開講されました。初回から”超実践”です。前置きの概論はそこそこに、課題として事前に渡したゲラについて受講生が現時点の装丁イメージを発表、それに対して鈴木さんが個別にコメントを出していきました。両者の緊張感漂うやりとりは、後日、お届けする連載「鈴木成一と本を作る」にて、詳細を紹介します。  ところで、装丁家はどのように本のデザインを決めるのでしょう。手がかりとなるのは作品そのもの。鈴木さんは、編集者との打ち合わせ前に

読書バリアフリー

紙の本、電子書籍、オーディオブック、点字…本の味わい方は人それぞれ。これからの読書のありかたや、読書バリアフリーに関する話題を発信します。

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  • 13本

木村匡志×オーテピア「すべての人を本の世界へ」読書バリアフリーをめぐる旅 #1

小学館マーケティング局アクセシブル・ブックス事業室で、読書バリアフリー・アクセシビリティ関連の業務を担当する木村匡志と申します。  読書バリアフリーについての意識・関心を少しでも高められればとの思いから、読書バリアフリーをテーマにした社内セミナーや勉強会を集英社で共同開催する取組みを2022年に始めました。  本稿は、セミナーへの登壇を依頼、相談するために訪問した高知の「オーテピア」を取材、同館について読書バリアフリーの取組みを中心にまとめたものです。  高知城のすぐそ

片岡見悠さん「最初は2倍速、次第に4倍速が普通になった」ルポ 読書百景 #6

『オリエント急行』を聴いて  片岡見悠さんは現在、横浜の専門学校で陶芸を学ぶ20歳の若者だ。彼には文字の読み書きに困難を抱えるディスレクシア(識字障害)がある。  ディスレクシアとは発達障害の一つで、読むのに時間がかかる、文字を読み間違う、文字を見て内容を理解するのが難しい、文字が歪んで見える、鏡文字になって見える、揺らいで見える——など症状は人によって様々だ。 「僕の場合は特に漢字の読み書きが無理だったんです。カタカナや平仮名は読めるのですが、当時から画数が複雑な漢字

萬谷ひとみさん「知らないことすら知らなかった」読書バリアフリーと私 #4

1. 相手の立場で物事を考える 「まずは名前を名乗れ! 私は目が見えないんだ。あなたが職員かどうか、私にはわからないんだから!」  私が初めて視覚障害のある方と出会ったときに言われた言葉です。あのときの衝撃は、今でも鮮明に覚えています。  当時、私は図書館に勤務し、情報システムと障害者サービスを兼任していました。  カウンターの職員から、「OPAC(Online Public Access Catalogの略。図書館の蔵書目録データベース)の検索について、担当者を呼

馬場千枝さん「アクセシブルブック、つぎのいっぽ」読書バリアフリーと私 #3

「モノ」を越えたところへ 「一緒にアクセシブルブックについての本を作りませんか」と共同執筆者の宮田和樹さんに声をかけてもらい、銀座のカフェで最初のミーティングをしたのが2023年1月。実際に取材を始めたのが同年3月。東京・高田馬場駅の近くにある日本点字図書館の見学が、まさに私にとっての「はじめのいっぽ」でした。  昔から馴染みのあるこの町に、点字の図書館があることを初めて知り、さらに中に入れば驚くことばかり。ダダダダとリズミカルな音を立てながら、猛烈なスピードで白い紙を吐

ノンフィクション

ルポルタージュや調査報道など、取材を伴う作品を中心にアップします。

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  • 17本

村上千佳(助産師)×コンゴ「豊穣な大地ゆえに人びとは血を流す」紛争地の仕事 #3前編

全派遣18回  彼女は取材場所に、着物姿で現れた。  2024年7月上旬、国境なき医師団(MSF)のオフィス。村上千佳は、クリーム色の生地に、繊細な糸が描く大柄の蒼い花が散りばめられた着物をまとい、翠の紋紗を羽織っていた。村上と初めて出会ったのは15年ほど前になる。対面で会うとなると、今日で5回目くらいだろうか。そのたびに村上の和服姿を目にしてきた。梅雨を清々しく表現しているような色合いに、思わず見惚れてしまった。  村上が1年のほとんどをMSFの現場で過ごす助産師であ

今村剛朗(救急医)×パレスチナ・ヨルダン川西岸地区「医療妨害は本当に起きていた」紛争地の仕事 #2後編

救えない命はある  研究や公衆衛生を含め、医師として様々な顔を持つ今村だが、臨床においては救急の道を選ぶことに迷いはなかった。 「救急では専門科を問わず、多種多様な症例に対応します。例えば脳内出血や心筋梗塞の患者もいれば、感染症や小児患者も診ます。そこが医師としての醍醐味でもあります。原因が分からない、でも苦しんでいる。そんな患者の身体の中で何が起きているのかという、謎解きをしなくてはいけないこともあります。それが僕は好きなのだと思います」  もともと物事の成り立ちを理

水谷竹秀「変わり果てた同級生を想う」 叫び リンちゃん殺害事件の遺族を追って #4

 7年前、起きたこと  彼らは今、7年前に起きたあの日のことをどのように受け止めているのだろうか。    当時の記憶を胸に仕舞い込んだまま、成長し続けている子供たちがいる。それはリンちゃんと同じ教室で机を並べ、勉強をともにした同級生たちだ。まだ小学3年生だった彼らにとって、人間の死や人が殺されるという現実はどのように映り、そして理解されていったのか。もしくは理解されなかったのか。   リンちゃんが松戸市立六実第二小学校へ転校してきたのは、3年生の3学期からである。その時

村上千佳(助産師)×コンゴ「レイプは戦争の武器である」紛争地の仕事 #3後編

女性たちを「家族の恥」に  MSFの助産師・村上千佳によれば、兵士らが女性に性暴力を働くのは、実は性のはけ口などではないという。 「全ては、この土地に世界的に豊かな鉱物資源が埋蔵されていることにあるんです」  武装勢力にとって、鉱物資源に絡む富と利権は絶対に手に入れたいものだ。それにはその土地を支配しなくてはならない。だから先住民を追い出す必要がある。そのための手段として、性暴力が使われてきた。働き手である土地のキーパーソンである女性たちに性暴力を加え、「家族の恥」とす