見出し画像

編集日誌 #5 装丁なんてそんなもの?

 特別な用事がない限り普段は訪れない下北沢は、降り立つ度に装いがかわっています。再開発が加速度的に進んでいる。とはいえ2ヶ月ほどの間に、打ち合わせを含めると10回弱も訪れると、ちょっとは街に馴染みが出てきます。

 ブックデザイナーの鈴木成一さんによる「装丁の学校」が8月7日に最終授業を迎えました。作家・横関大さんの新作『誘拐ジャパン』のカバー案を題材に、実践形式で教えるワークショップです。

 その模様を同時進行的に伝えた連載を一読してもらえば、全5回の授業がデザイナーやイラストレーター、そして編集者らにとって学びに満ちていることがわかるでしょう。とにかく熱い夏でした。作家も参加した最終審査では、塾生15人の作品のなかから佐々木信博さんが最優秀賞に輝きました。10月30日発売の同作品のカバーに採用されます。

鈴木成一さんをも脱帽させた佐々木さん案

 ところで最終日には小学館の編集者が多数参加し、参考意見としてそれぞれの「推し」に一票を投じました。意外だったのはその票がことごとくばらけたこと。鈴木さんは冗談混じりにこう語っていました。

「私も好き勝手にいろいろ言いましたけど、編集者の方々もみんな全然違うことを言ってましたよね。そんなものなんです。そのたびに装丁家として、彼らの言葉を受け入れて、自分の表現を探っていくんですよ」

 このワークショップは、『誘拐ジャパン』のテキストを、おのおのデザイナーがどう「読む」か、ということから始まりました。そこから、こうもバリエーションあるカバーが誕生した。また、それを選ぶ編集者の好みもさまざまでした。結果的にですが、読みの多様性や可能性を考えるwebメディア「読書百景」がレポートするにふさわしい授業となったと思います。

 後日談も。私は8月22日に鈴木成一デザイン室に、23日に本屋 B&Bを訪ねました。授業の御礼と総括が主題でしたが、いずれも次回の学校もあるやなしやの話題になりました。こうご期待です。

「読書百景」編集長
柏原航輔