読書百景
紙の本、電子書籍、オーディオブック、点字…本の味わい方は人それぞれ。これからの読書のありかたや、読書バリアフリーに関する話題を発信します。
本連載は、上海在住経験があり、民主化デモが吹き荒れた香港のルポルタージュなどをものしてきた西谷格氏による、中国・新疆ウイグル自治区の滞在記です。少数民族が暮らす同地は、中国当局による監視が最も厳しい地として知られています。
編集者のつぶやき、ぼやきを中心に綴っています。
ご自身の経験や研究に基づく作品を中心にアップしています。
ルポルタージュや調査報道など、取材を伴う作品を中心にアップします。
小学館マーケティング局アクセシブル・ブックス事業室で、読書バリアフリー・アクセシビリティ関連の業務を担当する木村匡志と申します。 読書バリアフリーについての意識・関心を少しでも高められればとの思いから、読書バリアフリーをテーマにした社内セミナーや勉強会を集英社で共同開催する取組みを2022年に始めました。 本稿は、セミナーへの登壇を依頼、相談するために訪問した高知の「オーテピア」を取材、同館について読書バリアフリーの取組みを中心にまとめたものです。 高知城のすぐ
『オリエント急行』を聴いて 片岡見悠さんは現在、横浜の専門学校で陶芸を学ぶ20歳の若者だ。彼には文字の読み書きに困難を抱えるディスレクシア(識字障害)がある。 ディスレクシアとは発達障害の一つで、読むのに時間がかかる、文字を読み間違う、文字を見て内容を理解するのが難しい、文字が歪んで見える、鏡文字になって見える、揺らいで見える——など症状は人によって様々だ。 「僕の場合は特に漢字の読み書きが無理だったんです。カタカナや平仮名は読めるのですが、当時から画数が複雑な漢字
黒い感情と、不安沼。この連載に登場する女性たちは、まんま、自分だなあと思います。いつもわけのわからん不安を抱えていたり、「ちゃんとやらなきゃ誰からも認められない」と勝手に自分を追い込んでイキッたり、自分のルールの外側にいる(しかもなんだか楽しそう)人を「許せん・・・・!」と感じたり。 だから私はいつも背中がこっているし、ときどき足もつる(今朝も寝返りを打った瞬間に左足のふくらはぎがつり、激痛で覚醒した)。そして不安という沼から湧き出るアグレッシブな感情は、やがて血糖値スパイ
「先生! 私、病気でないなら、なんなんですか?」 突然、胸がザワザワしたり、息苦しさを覚えたり、心当たりもなく不安感が押し寄せてくる症状があります。さくらさん(29歳)も、そのひとり。最初の発症は通勤途中の駅のホームでだったそうです。 「急に、胸がギューって感じになって、同時にものすごい不安感が押し寄せてきたんです」 その日を境にさくらさんは頻繁に同じ症状を感じるようになったといいます。当然、さくらさんはあらゆる科をまたいで受診したそうですが、どの医療機関の結果も
◆4章 ヤルカンド「二日月」のレストラン ホータンで見られそうなモスクは回れたので、次の街を目指すことにした。オーストラリア戦略政策研究所のウイグルマップで破壊されたモスクや収容所の多そうな街に目星を付け、莎車(ヤルカンド)という小さな町を選んだ。それらを意味する赤や黄色の丸印が、地図上でとりわけ多かったのだ。 ホータンからヤルカンドまでは、汽車で3時間ほどだった。少し贅沢かとは思ったが、一等の寝台車を予約した。個室の4人部屋の上段ベッドから下を見下ろすと、3人の中高
1. 相手の立場で物事を考える 「まずは名前を名乗れ! 私は目が見えないんだ。あなたが職員かどうか、私にはわからないんだから!」 私が初めて視覚障害のある方と出会ったときに言われた言葉です。あのときの衝撃は、今でも鮮明に覚えています。 当時、私は図書館に勤務し、情報システムと障害者サービスを兼任していました。 カウンターの職員から、「OPAC(Online Public Access Catalogの略。図書館の蔵書目録データベース)の検索について、担当者を呼
◆今月の一首 女のくせに歌人なのにと言うやつらバイブスぶち上げかましますわよ 野口あや子 蒸し暑い夏の金曜日、京都のロームシアターで蹴鞠と雅楽と和歌の披講が行われる和歌の名門「冷泉家」の七夕の舞台「乞巧奠」の幕間、私は猛烈にある単語をGoogleでサーチしていた。最初は「京都 金曜 サイファー」。それでも出てこず、少し範囲を広げて「関西 金曜 サイファー」。一見ヒットしたけれどこれは……違う。あの有名な梅田サイファーのライブイベントだ。定期的に行われていそうな、もうち
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「モノ」を越えたところへ 「一緒にアクセシブルブックについての本を作りませんか」と共同執筆者の宮田和樹さんに声をかけてもらい、銀座のカフェで最初のミーティングをしたのが2023年1月。実際に取材を始めたのが同年3月。東京・高田馬場駅の近くにある日本点字図書館の見学が、まさに私にとっての「はじめのいっぽ」でした。 昔から馴染みのあるこの町に、点字の図書館があることを初めて知り、さらに中に入れば驚くことばかり。ダダダダとリズミカルな音を立てながら、猛烈なスピードで白い紙を吐
誰にも教えたくない、心の中に隠しつづけたい話はどんな人にでもあるだろう。いつかバレたら、と考えるだけで、冷たい汗が出て心がドキドキしはじめる。だから絶対に誰にも言わない。 例えばこのような話。 夫と一緒に日本に来てから2年、私たちは埼玉県朝霞市から都内に引っ越すことを決めた。新しい住まいは、家主が手入れをしない庭に囲まれ、70年代に建てられた木造アパートの一階だった。冬は非常に寒く、畳や壁の隙間から冷たい風が吹き込む。夏は死ぬほど湿気で暑く、ゴキブリはもちろん、さま
◆3章 ホータンモスクは検索できず 乗客6人を乗せた乗合タクシーは1人65元(約1300円)で、3時間ほどで南疆の小都市・和田に到着した。ウルムチで出会ったウイグル人の男性が、南部のほうが独自の文化が残っていると、言っていたからだ。時刻はすでに午前1時近かった。 バスの停留所で降ろされると、腹が出て固太りした小柄なウイグル人風の男性が「どこまで行きたいんだ?」と声をかけてきた。タクシーの客引きのようだ。ホテル名を告げて助手席に乗ると、ワイルド感のある体臭と腐ったニンニ
『ホール・アース・カタログ』と『暮しの手帖』をヒントに 「『アクセシブルブック はじめのいっぽ』の取材や編集の過程で出会ったけれど、収録できなかったことで、印象に残っているものがあったら書いてみませんか?」 「読書百景」編集長の柏原航輔さんから、共著者の3人にお声がけいただきました。 取材対象から外してしまったものについては「あとがき」に書いた通りです。けれども、こうして改めて振り返る機会を与えられてみると、ほかにも取り上げられなかったものがいくつもあることに思い当た
「偽善者」と切り捨てる思考 私は読書バリアフリーの研究者である。「野口さんは、なぜ読書バリアフリーを研究しようと思ったのですか」とよく聞かれる。「図書館や出版に関する研究者はたくさんいますが、読書バリアフリーの研究とは珍しいですね」と言われることもある。 私が読書バリアフリーの研究を始めたのは、今から25年くらい前のこと(当時は、読書バリアフリーという言葉さえなかった)。そのきっかけは何だったのだろう。いい機会なので、記憶を手繰り寄せることにする。 私は小学校入学
7年前、起きたこと 彼らは今、7年前に起きたあの日のことをどのように受け止めているのだろうか。 当時の記憶を胸に仕舞い込んだまま、成長し続けている子供たちがいる。それはリンちゃんと同じ教室で机を並べ、勉強をともにした同級生たちだ。まだ小学3年生だった彼らにとって、人間の死や人が殺されるという現実はどのように映り、そして理解されていったのか。もしくは理解されなかったのか。 リンちゃんが松戸市立六実第二小学校へ転校してきたのは、3年生の3学期からである。その時
モスクはあるのかないのか あのモスクはいったい何なのだ。もっとよく調べてから向かうべきだったと後悔の念を抱きつつ、重大な秘密に迫りつつあるような興奮があった。ホテルに戻って中国語でネット検索すると、以下のことが分かった。 モスクは西暦1200年頃に建てられ、11階建てだった。 これまで7回の修復が行われ、直近は1997〜98年にかけて実施した。 礼拝日(金曜日)には4000〜5000人、クルバン祭には1万〜1万6000人の参 拝者が訪れていた。 北門の高さは24メ
◆2章 ケリヤ県空港での呼び出し 日本を発つ直前、日本ウイグル協会副会長のハリマト・ローズさんに挨拶に行った。ローズさんは千葉県内でケバブ店を営んでおり、店舗内で声をかけた。 現地のウイグル人に話を聞くにはどうしたらいいでしょうか。 「ウルムチは大都会だから、もっと南のほう、例えば和田に行ってみたらいいのではないか。南のほうがウイグル人が多く、ウイグル文化も多少は残っていると思いますよ」 日本の4倍の面積を持つ新疆ウイグル自治区は、天山山脈を挟んで北部(北疆)と