読書百景

小学館学芸チームのWEBメディア「読書百景」|紙、電子、点字、オーディオブックなど、本…

読書百景

小学館学芸チームのWEBメディア「読書百景」|紙、電子、点字、オーディオブックなど、本の味わい方は人それぞれ。これからの読書のかたちを提案します|ノンフィクション、エッセイのほか新刊情報も|毎週月曜更新|お問い合わせ→http://p.sgkm.jp/dokushohyakkei

リンク

マガジン

  • 編集日誌

    編集者のつぶやき、ぼやきを中心に綴っています。

  • ノンフィクション

    ルポルタージュや調査報道など、取材を伴う作品を中心にアップします。

  • エッセイ

    ご自身の経験や研究に基づく作品を中心にアップしています。

  • 【有料】一九八四+四〇 ウイグル潜入記(西谷格)

    本連載は、上海在住経験があり、民主化デモが吹き荒れた香港のルポルタージュなどをものしてきた西谷格氏による、中国・新疆ウイグル自治区の滞在記です。少数民族が暮らす同地は、中国当局による監視が最も厳しい地として知られています。

  • 読書バリアフリー

    紙の本、電子書籍、オーディオブック、点字…本の味わい方は人それぞれ。これからの読書のありかたや、読書バリアフリーに関する話題を発信します。

ウィジェット

記事一覧

西谷格「"神なき宗教"を信じる人びと」一九八四+四〇 ウイグル潜入記 #7

「あなたはアッラーを信じていますか?」  ホータンでもこれまでと同様、店先などで出会ったウイグル人と挨拶をしながら中国語で「イスラム教を信仰しているか?」と質問…

読書百景
1日前
7

馬場千枝さん「アクセシブルブック、つぎのいっぽ」読書バリアフリーと私 #3

「モノ」を越えたところへ 「一緒にアクセシブルブックについての本を作りませんか」と共同執筆者の宮田和樹さんに声をかけてもらい、銀座のカフェで最初のミーティングを…

読書百景
4日前
17

アンナ・ツィマ「賭け布団」ニホンブンガクシ 日本文学私 #5

 誰にも教えたくない、心の中に隠しつづけたい話はどんな人にでもあるだろう。いつかバレたら、と考えるだけで、冷たい汗が出て心がドキドキしはじめる。だから絶対に誰に…

読書百景
8日前
11

西谷格「深夜1時半にドアを突然ノックされ…」一九八四+四〇 ウイグル潜入記 #6

◆3章 ホータンモスクは検索できず  乗客6人を乗せた乗合タクシーは1人65元(約1300円)で、3時間ほどで南疆の小都市・和田に到着した。ウルムチで出会ったウイグル人…

500
読書百景
8日前
10

宮田和樹さん「本では書ききれなかったダイアログ・イン・ザ・ダークのこと」読書バリアフリーと私 #2

『ホール・アース・カタログ』と『暮しの手帖』をヒントに 「『アクセシブルブック はじめのいっぽ』の取材や編集の過程で出会ったけれど、収録できなかったことで、印象…

読書百景
11日前
28

野口武悟さん「なぜ”自分事”として研究するのか」読書バリアフリーと私 #1

「偽善者」と切り捨てる思考  私は読書バリアフリーの研究者である。「野口さんは、なぜ読書バリアフリーを研究しようと思ったのですか」とよく聞かれる。「図書館や出版…

読書百景
2週間前
15

水谷竹秀「変わり果てた同級生を想う」 叫び リンちゃん殺害事件の遺族を追って #4

 7年前、起きたこと  彼らは今、7年前に起きたあの日のことをどのように受け止めているのだろうか。    当時の記憶を胸に仕舞い込んだまま、成長し続けている子供た…

読書百景
3週間前
11

西谷格「毛沢東と”誰か”の銅像」一九八四+四〇 ウイグル潜入記 #5

モスクはあるのかないのか  あのモスクはいったい何なのだ。もっとよく調べてから向かうべきだったと後悔の念を抱きつつ、重大な秘密に迫りつつあるような興奮があった。…

500
読書百景
4週間前
12

西谷格「新疆人は、砂とともに生きている」一九八四+四〇 ウイグル潜入記 #4

◆2章 ケリヤ県空港での呼び出し  日本を発つ直前、日本ウイグル協会副会長のハリマト・ローズさんに挨拶に行った。ローズさんは千葉県内でケバブ店を営んでおり、店舗…

500
読書百景
1か月前
6

西谷格 「人狼か、ブラックジャックか」一九八四+四〇 ウイグル潜入記 #3

ガラガラのモスク  ウイグル人はイスラム教徒なので、モスクに行ったら話が聞けるのではないかと考えた。だが、現地の地図アプリでモスクを検索しても、ウルムチ市全体で…

読書百景
1か月前
11

出口治明さん「脳出血を経て、僕の何が変わったか」ルポ 読書百景 #5

「3日が大学、3日がリハビリ、毎日1冊は本を読む」   立命館大学アジア太平洋大学(APU)の前学長の出口治明さんが、脳出血を発症したのは2021年1月のことだった。滞在…

読書百景
1か月前
21

西谷格「110番したら54秒で警察はやってくる」一九八四+四〇 ウイグル潜入記 #2

◆1章 ウルムチホテルのフロントで  2023年7月、中国・天津の浜海国際空港から乗った奥凱航空3099便は片道1316元(約2万6320円、1元=約20円)と日本に帰国するより高…

読書百景
1か月前
18

西谷格「中国大陸の一番遠いところ」一九八四+四〇 ウイグル潜入記 #1

プロローグ なぜ新疆に行ったのかと考えると、一言でこうだと言い切れないところがある。未知の世界を見てみたかった、と言ってしまえばそれまでなのだが、中国大陸の「一…

読書百景
1か月前
17

村上千佳(助産師)×コンゴ「レイプは戦争の武器である」紛争地の仕事 #3後編

女性たちを「家族の恥」に  MSFの助産師・村上千佳によれば、兵士らが女性に性暴力を働くのは、実は性のはけ口などではないという。 「全ては、この土地に世界的に豊か…

読書百景
2か月前
13

編集日誌 #5 装丁なんてそんなもの?

 特別な用事がない限り普段は訪れない下北沢は、降り立つ度に装いがかわっています。再開発が加速度的に進んでいる。とはいえ2ヶ月ほどの間に、打ち合わせを含めると10回…

読書百景
2か月前
11

鈴木成一と本をつくる#5後編 「叩かれれば叩かれるほど鍛えられていく」

タイトルは発明である  この夏の東京は、強烈な雷雨に見舞われることが多かったが、この日も例外ではない。講義中には屋根を叩く雨音と、壁と床を揺らす雷の振動が、会場…

読書百景
2か月前
18

西谷格「"神なき宗教"を信じる人びと」一九八四+四〇 ウイグル潜入記 #7

「あなたはアッラーを信じていますか?」  ホータンでもこれまでと同様、店先などで出会ったウイグル人と挨拶をしながら中国語で「イスラム教を信仰しているか?」と質問したのだが、ほとんど会話は成立しなかった。中高年以上は中国語をほとんど解さないため元より意思疎通はあきらめていたが、20代ぐらいのある程度中国語が通じる相手に的を絞っても、どうにもうまくいかないのだ。軽い雑談を交わして中国語が通じることを確認した上で、明瞭な発音で「イスラム教を信じていますか?」「モスクに行くことはあ

固定された記事

馬場千枝さん「アクセシブルブック、つぎのいっぽ」読書バリアフリーと私 #3

「モノ」を越えたところへ 「一緒にアクセシブルブックについての本を作りませんか」と共同執筆者の宮田和樹さんに声をかけてもらい、銀座のカフェで最初のミーティングをしたのが2023年1月。実際に取材を始めたのが同年3月。東京・高田馬場駅の近くにある日本点字図書館の見学が、まさに私にとっての「はじめのいっぽ」でした。  昔から馴染みのあるこの町に、点字の図書館があることを初めて知り、さらに中に入れば驚くことばかり。ダダダダとリズミカルな音を立てながら、猛烈なスピードで白い紙を吐

アンナ・ツィマ「賭け布団」ニホンブンガクシ 日本文学私 #5

 誰にも教えたくない、心の中に隠しつづけたい話はどんな人にでもあるだろう。いつかバレたら、と考えるだけで、冷たい汗が出て心がドキドキしはじめる。だから絶対に誰にも言わない。  例えばこのような話。  夫と一緒に日本に来てから2年、私たちは埼玉県朝霞市から都内に引っ越すことを決めた。新しい住まいは、家主が手入れをしない庭に囲まれ、70年代に建てられた木造アパートの一階だった。冬は非常に寒く、畳や壁の隙間から冷たい風が吹き込む。夏は死ぬほど湿気で暑く、ゴキブリはもちろん、さま

西谷格「深夜1時半にドアを突然ノックされ…」一九八四+四〇 ウイグル潜入記 #6

◆3章 ホータンモスクは検索できず  乗客6人を乗せた乗合タクシーは1人65元(約1300円)で、3時間ほどで南疆の小都市・和田に到着した。ウルムチで出会ったウイグル人の男性が、南部のほうが独自の文化が残っていると、言っていたからだ。時刻はすでに午前1時近かった。  バスの停留所で降ろされると、腹が出て固太りした小柄なウイグル人風の男性が「どこまで行きたいんだ?」と声をかけてきた。タクシーの客引きのようだ。ホテル名を告げて助手席に乗ると、ワイルド感のある体臭と腐ったニンニ

¥500

宮田和樹さん「本では書ききれなかったダイアログ・イン・ザ・ダークのこと」読書バリアフリーと私 #2

『ホール・アース・カタログ』と『暮しの手帖』をヒントに 「『アクセシブルブック はじめのいっぽ』の取材や編集の過程で出会ったけれど、収録できなかったことで、印象に残っているものがあったら書いてみませんか?」 「読書百景」編集長の柏原航輔さんから、共著者の3人にお声がけいただきました。  取材対象から外してしまったものについては「あとがき」に書いた通りです。けれども、こうして改めて振り返る機会を与えられてみると、ほかにも取り上げられなかったものがいくつもあることに思い当た

野口武悟さん「なぜ”自分事”として研究するのか」読書バリアフリーと私 #1

「偽善者」と切り捨てる思考  私は読書バリアフリーの研究者である。「野口さんは、なぜ読書バリアフリーを研究しようと思ったのですか」とよく聞かれる。「図書館や出版に関する研究者はたくさんいますが、読書バリアフリーの研究とは珍しいですね」と言われることもある。  私が読書バリアフリーの研究を始めたのは、今から25年くらい前のこと(当時は、読書バリアフリーという言葉さえなかった)。そのきっかけは何だったのだろう。いい機会なので、記憶を手繰り寄せることにする。  私は小学校入学

水谷竹秀「変わり果てた同級生を想う」 叫び リンちゃん殺害事件の遺族を追って #4

 7年前、起きたこと  彼らは今、7年前に起きたあの日のことをどのように受け止めているのだろうか。    当時の記憶を胸に仕舞い込んだまま、成長し続けている子供たちがいる。それはリンちゃんと同じ教室で机を並べ、勉強をともにした同級生たちだ。まだ小学3年生だった彼らにとって、人間の死や人が殺されるという現実はどのように映り、そして理解されていったのか。もしくは理解されなかったのか。   リンちゃんが松戸市立六実第二小学校へ転校してきたのは、3年生の3学期からである。その時

西谷格「毛沢東と”誰か”の銅像」一九八四+四〇 ウイグル潜入記 #5

モスクはあるのかないのか  あのモスクはいったい何なのだ。もっとよく調べてから向かうべきだったと後悔の念を抱きつつ、重大な秘密に迫りつつあるような興奮があった。ホテルに戻って中国語でネット検索すると、以下のことが分かった。 モスクは西暦1200年頃に建てられ、11階建てだった。 これまで7回の修復が行われ、直近は1997〜98年にかけて実施した。 礼拝日(金曜日)には4000〜5000人、クルバン祭には1万〜1万6000人の参 拝者が訪れていた。 北門の高さは24メ

¥500

西谷格「新疆人は、砂とともに生きている」一九八四+四〇 ウイグル潜入記 #4

◆2章 ケリヤ県空港での呼び出し  日本を発つ直前、日本ウイグル協会副会長のハリマト・ローズさんに挨拶に行った。ローズさんは千葉県内でケバブ店を営んでおり、店舗内で声をかけた。  現地のウイグル人に話を聞くにはどうしたらいいでしょうか。 「ウルムチは大都会だから、もっと南のほう、例えば和田に行ってみたらいいのではないか。南のほうがウイグル人が多く、ウイグル文化も多少は残っていると思いますよ」  日本の4倍の面積を持つ新疆ウイグル自治区は、天山山脈を挟んで北部(北疆)と

¥500

西谷格 「人狼か、ブラックジャックか」一九八四+四〇 ウイグル潜入記 #3

ガラガラのモスク  ウイグル人はイスラム教徒なので、モスクに行ったら話が聞けるのではないかと考えた。だが、現地の地図アプリでモスクを検索しても、ウルムチ市全体で3〜4カ所しかヒットせず、しかも「一般公開はしていません」とある。   2014年に旅行で訪れた際は、街のあちこちにモスクがあり自由に出入りや見学ができたのを覚えている。その時は、レストランで隣に座ったウイグル人男性に誘われて、一緒にモスクでお祈りまでさせてもらったのだ。厳粛な雰囲気に緊張したものの、何十人もの人々

¥500

出口治明さん「脳出血を経て、僕の何が変わったか」ルポ 読書百景 #5

「3日が大学、3日がリハビリ、毎日1冊は本を読む」   立命館大学アジア太平洋大学(APU)の前学長の出口治明さんが、脳出血を発症したのは2021年1月のことだった。滞在中だった福岡のホテルで発作を起こして病院に搬送され、命に別状こそなかったが、右半身の強い運動麻痺と失語症の症状が残った。その後、APUへの復職を目指してのリハビリの様子は、自著である『復活への底力』で詳細に語られている。  そのなかに、強く印象に残った場面がある。出口さんはリハビリ病院で身体の機能の回復を

西谷格「110番したら54秒で警察はやってくる」一九八四+四〇 ウイグル潜入記 #2

◆1章 ウルムチホテルのフロントで  2023年7月、中国・天津の浜海国際空港から乗った奥凱航空3099便は片道1316元(約2万6320円、1元=約20円)と日本に帰国するより高額で、新疆ウイグル自治区の首府ウルムチまでの航行距離は約2500キロと天津ー東京間を上回った。途中、寧夏回族自治区の地方都市・銀川で2時間ほど駐機したのち、丸一日かけてウルムチの地窩堡国際空港に到着した。機体と到着ゲートをつなぐトンネル状のボーディングブリッジを進むと、ブリッジ内の壁に「新疆銀行」

¥500

西谷格「中国大陸の一番遠いところ」一九八四+四〇 ウイグル潜入記 #1

プロローグ なぜ新疆に行ったのかと考えると、一言でこうだと言い切れないところがある。未知の世界を見てみたかった、と言ってしまえばそれまでなのだが、中国大陸の「一番遠いところ」がどんな場所なのか、旅行がてら見てみるかと思ったのが発端だった。  新疆ウイグル自治区には、2014年に中国に遊びに来ていた日本の友人たちと4日間ほど滞在したことがあった。当時、私は中国・上海に住んでいて、現地在住のフリーライターとして活動していた。旅好きの彼らから新疆に行かないかと誘われて、こういう機

¥500

村上千佳(助産師)×コンゴ「レイプは戦争の武器である」紛争地の仕事 #3後編

女性たちを「家族の恥」に  MSFの助産師・村上千佳によれば、兵士らが女性に性暴力を働くのは、実は性のはけ口などではないという。 「全ては、この土地に世界的に豊かな鉱物資源が埋蔵されていることにあるんです」  武装勢力にとって、鉱物資源に絡む富と利権は絶対に手に入れたいものだ。それにはその土地を支配しなくてはならない。だから先住民を追い出す必要がある。そのための手段として、性暴力が使われてきた。働き手である土地のキーパーソンである女性たちに性暴力を加え、「家族の恥」とす

編集日誌 #5 装丁なんてそんなもの?

 特別な用事がない限り普段は訪れない下北沢は、降り立つ度に装いがかわっています。再開発が加速度的に進んでいる。とはいえ2ヶ月ほどの間に、打ち合わせを含めると10回弱も訪れると、ちょっとは街に馴染みが出てきます。  ブックデザイナーの鈴木成一さんによる「装丁の学校」が8月7日に最終授業を迎えました。作家・横関大さんの新作『誘拐ジャパン』のカバー案を題材に、実践形式で教えるワークショップです。  その模様を同時進行的に伝えた連載を一読してもらえば、全5回の授業がデザイナーやイ

鈴木成一と本をつくる#5後編 「叩かれれば叩かれるほど鍛えられていく」

タイトルは発明である  この夏の東京は、強烈な雷雨に見舞われることが多かったが、この日も例外ではない。講義中には屋根を叩く雨音と、壁と床を揺らす雷の振動が、会場の緊張感をいやおうなしに高めていく。  初回講義で『誘拐ジャパン』のテーマを「みんなが共犯者」と喝破したのは小守いつみであった。本作の担当編集である柏原航輔も、この言葉を「読んでるあなたも共犯者」と言い換えてオビに採用したほどだ。  本の個性を一言で言い当てた小守は、群衆たちを描いたイラストでその個性を表現してみ