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女性鍼灸師の施術室より:なんだかわからないけどいつも不安でいっぱいのあなたへ【黒い感情と不安沼】#1 

不安。それはときに呪いや妬みといった黒い感情を引き寄せる、やっかいな感情。病気ではないので明確な治療法はないし、周囲の理解や共感も得にくいから、沼にハマると苦しくなります。やがて心と体は一体だから血流は悪化し、体調は最悪に。女性鍼灸師のやまざきあつこさんの元には、そんな患者さんがたくさん訪れます。この連載では、7万人におよぶセッションを通じて彼女が導きだした、薬や医療に頼らないでそこから這い出る方法のヒントを伝えます。

「先生!  私、病気でないなら、なんなんですか?」

 突然、胸がザワザワしたり、息苦しさを覚えたり、心当たりもなく不安感が押し寄せてくる症状があります。さくらさん(29歳)も、そのひとり。最初の発症は通勤途中の駅のホームでだったそうです。
 
「急に、胸がギューって感じになって、同時にものすごい不安感が押し寄せてきたんです」
 
 その日を境にさくらさんは頻繁に同じ症状を感じるようになったといいます。当然、さくらさんはあらゆる科をまたいで受診したそうですが、どの医療機関の結果も「医学的所見は認められない」。
 つまり、診断結果は「病気ではない」ということです。
 
 さくらさんが悲痛な顔をして訴えます。
「先生! 私、病気でないなら、なんなんですか?」
 
 さくらさんのように、今日も当院には「不安」を訴える患者さんが来られます。年齢には関係なく、それこそ学生さんから、お孫さんがおられる方まで様々。
 共通点としては、これといった理由も思い当たらないのに「訳もなくただ不安」で「何かがおかしくて、とにかく変」というのが多いのです。文字にすれば、ザワザワ、ドキドキ、グワー……なのですが、その症状はどの言葉をもってしてもしっくり当てはまらないので、人に説明してもわかってもらえないというのも特徴。それゆえ、余計にひとりで抱え込みがちになるんです。
 
 人間、理由がわかれば対処のしようがあるんですが、「漠然とした不安感」というものは本人にも理由がわかっていないことが多いので、なんだかわからないままに、その「不安」が「恐怖」に変わってしまう。「これって何?」「どうなっちゃうの、私?」って気持ちになって、やがて、得体のしれない何かに飲み込まれる感覚になっていきやすいです。
 
 でもね、安心してください。これには、ちゃんと理由があります。本人のみがわかっていないだけで、理由があるんです。
 
 それは、「無理しちゃったから」。ただ、それだけ。
 
 心と体はふたつでひとつですから、どちらかが限界を超えたら「症状」として出現します。大まかに言い切るならば、その原因は、次のふたつ。
 
●気付かぬうちに疲労が蓄積していた
●本当は嫌なのに、それを押し殺す日々が続いた
 
 要は「疲れちゃって、キャパオーバー」。心と体の疲労という、このふたつが複雑に絡み合って、ある日突然、発症するんですね。本当は、そうなる前にご自身で気付き、ご自分の体と心を労(いたわ)わってあげないといけないのですが、「症状」勃発は、「これ以上のやり過ぎはダメよ」という体からのメッセージ。「無理は禁物」という有り難い警告です。あなたは、まず、ご自身が生身の人間だということを自覚しましょう。

息をしているだけで疲れやすい状態!?

「えー!? 私は全然、大丈夫なハズなんです! 無理しているつもりはないです!」
と反論したくなるでしょうが、今は生きているだけで“不安な時代”です。
 
 メディアは、天変地異や大事故、バッドニュースをこれでもかというくらいに垂れ流し続けますし、毎日、「お先真っ暗」と煽(あお)ってきます。ネットを見れば、正義を振りかざす人たちの声であふれている。「空気を読む」は必須のスキルで、コスパとタイパが至上命令という日々ですから、私たちは、常に不安に追い立てられているようなものなんですね。
 
 元々、日本人は不安遺伝子を多く持つ民族です。DNAが「ケ・セラ・セラ」とはなっていないので、ちょっとした弾みで、声にならない悲鳴を上げてしまうのは無理もないこと。この状態が、知らず知らずのうちに疲れを蓄積させます。私たちはこの空気の中で呼吸していますから、息をしているだけで疲れやすい状態ではあるんですね。 私たちは、こんな時代を生きていますから、ほんのちょっとの無理が心と体にダメージを与えてしまうんです。
 
「なんだか疲れたな」ってときのあなたの体の中は必ず、こうなっています。
 脳に酸素が行き渡っていない。
 
 不安を察知すると、それは生命の危機ですから、脳が興奮します。脳が興奮しすぎると、自律神経が滞(とどこお)ってしまい、血流が極端に悪くなっちゃう。要は酸素不足なので、疲れます。その状態が続くと「ある日、突然、不安で居ても立っても」になるんですね。
 
 でも、ここで「私、なんだか変!?」と気付いたことは喜ばしいことです。何故なら、不安は憂いに変わり、やがて絶望へと進化してしまうから。その前に、あなたの心と体を安心安全な場所に置くチャンスができてラッキー!  ということに意識を向けましょう。
 
「そっか、酸素不足なら、いい空気を吸えばいい!」って思考にシフトすればいいんです。
 
 心へのアプローチの方法は、追々、語っていきますが、まずは体へのアプローチが先です。そのひとつに、鍼(はり)治療があります。鍼は血流を上げ、自律神経のバランスを整えるのに非常に優れていますから、この不安感にも絶大なる効果を発揮します。効果を感じるまでには、個人差はありますが、10 日に一度の施術で大体、ひと月からみ月。
 さくらさんの場合、数回の治療で「昨夜は眠れた実感がある」「胸ザワが少なくなった」というまでになりました。
 
 「めでたし!  皆、鍼治療に行ってね」ではあるのですが、できるならば、不安な症状は速攻制御。セルフコントロールができるといいですよね。  
 その方法が、こちらです。

「ムギュー」は不安に効くからね!

 胸のザワつきなど、「ううう~」というような身を硬くするような症状が出て、不安感が押し寄せてきたら……
1 その場でまずは深呼吸。酸素を取り込むイメージで、徐々に大きく深く繰り返す(腹式呼吸だの胸式呼吸だのは考えなくてよし!)。
2 胸を軽くトントンと叩く。「大丈夫、大丈夫……」と一定のリズムで自分に声かけを。
3 それでも、恐怖心が去らない場合。クッションやタオルのようなフワフワしたものを思い切り抱きしめて。
 
 フワフワが頬に触れると、より安心感が増します。なければ、自分の腕で自分を抱きしめるのでもOKです。言葉かけとしては「ムギューッ」って感じ。ありったけの力で抱きしめて。そして、一気に脱力。
 
 可能であれば、抱き枕のような自分がもたれかかれるものに、上半身を委ねてみてください。日常生活で知らず知らずに溜め込んでいる緊張が原因のことも多いので、脱力は大事。
 
 さあ、「ムギュー」して「だら~」。やさしくて、あったかいものに包まれるイメージを思い浮かべながら、やってみてくださいね。

●やまざきあつこ
1963年生まれ。鍼灸師。藤沢市辻堂にある鍼灸院『鍼灸師 やまざきあつこ』院長。開業以来30年間、7万人の治療実績を持つ。1997年から2000年までテニスFedカップ日本代表チームトレーナー。プロテニスプレーヤー細木祐子選手、沢松奈生子選手、吉田友佳選手、杉山愛選手などのオフィシャルトレーナーとして海外遠征に同行。プロライフセーバー佐藤文机子選手、プロボディボーダー小池葵選手、S級競輪選手などの治療にも関わる。自律神経失調症の施術に定評がある。著書に『女はいつも、どっかが痛い』(小学館)。 

●鳥居りんこ(とりい りんこ)
1962年生まれ。作家、教育&介護アドバイザー。2003年、『偏差値30からの中学受験合格記』(学研プラス)がベストセラーとなり注目を集める。執筆・講演活動を軸に、現在は介護や不調に悩む大人の女性たちを応援している。近著に、構成・取材・執筆を担当した『1日誰とも話さなくても大丈夫 精神科医がやっている猫みたいに楽に生きる5つのステップ』(鹿目将至著、双葉社)など。鍼灸師やまざきあつこ氏との共著に『女はいつも、どっかが痛い』(小学館)。