読書百景
本連載は、上海在住経験があり、民主化デモが吹き荒れた香港のルポルタージュなどをものしてきた西谷格氏による、中国・新疆ウイグル自治区の滞在記です。少数民族が暮らす同地は、中国当局による監視が最も厳しい地として知られています。
ご自身の経験や研究に基づく作品を中心にアップしています。
編集者のつぶやき、ぼやきを中心に綴っています。
紙の本、電子書籍、オーディオブック、点字…本の味わい方は人それぞれ。これからの読書のありかたや、読書バリアフリーに関する話題を発信します。
ルポルタージュや調査報道など、取材を伴う作品を中心にアップします。
心と心が繋がっている 食事を終えると、外で話そうと提案された。食事代は私が奢ることにして、店を出た。ちょうど歩道にテラス席があった。午後の日差しは強烈だが、パラソルの日陰がある。 「新疆っていうのは、面白い場所なんだ」 そう言って、彼はテーブルの真ん中を指差しながら地理の講義をしてくれた。 「ここから一番近い海は太平洋ではなくインド洋。上海までは3500キロもあるし、北京も3000キロ。でも、300キロも走れば中央アジアの国々に出られるんだ。そして、西へ3000キ
更年期世代の不調は制御できないからやっかい ある日、施術中の菊乃さん(48歳)が苛立ちを抑えきれないといった様子で語り出しました。 「礼儀知らずが多過ぎです!」 聞けば、ここ最近、立て続けに挨拶を無視される出来事が重なったそうです。 仕事先の後輩に挨拶を返さない人がいるらしく、その人を見るだけでイライラが募るといいます。他にも、通い出したヨガ教室のロッカールームでも挨拶をしない人に遭遇したとかで、「あり得ない!」と怒り心頭のご様子です。 菊乃さんの症状は肩こ
ウイグル族の民家 ビリヤード台は時間貸しで、そろそろ店を出る時間になっていた。 「モスクを見たいんだけど、この近くにあるかな?」 「いくつかあるよ。案内する」 ビリヤード場を出て、雑貨屋や食堂などが並ぶ道をしばらく歩くと、「愛党愛国」と書かれた横長の赤い看板と、中国国旗を高く掲げた茶色い門が見えた。門は彫刻が美しいのだが、看板のほうが明らかに目立っている。入り口には「自治区和諧寺観教堂」と金属プレートが貼られていた。写真を撮ろうとすると若者は「あまり撮らないほうが
起立性調節障害の方にみられる環境への“過剰適応” 椿さん(20歳)は、高1の夏休み明けから、学校に行けなくなってしまいました。登校しようとすると鉛のように体が動かなくなるのだといいます。 椿さんの診断名は「起立性調節障害」。簡単に言えば、血圧や心拍を調整している自律神経の機能がうまく働いてくれない症状です。横になっている状態から立とうとすると、立ちくらみやめまいを起こしやすいという特徴があります。同時に倦怠感や頭痛、腹痛を感じることが多いので、学校や仕事に行きたくても、
◆今月の一首 Awich のtype beat に声を乗せくずし字のごとく声をくねらせ 九月、私は中部国際空港にうずくまっていた。久しぶりの遠出。しかもいきなりの飛行機。しばらくは男性の声も怖くてちょっとした外出さえままならなかったというのに、急にAwichの歌詞に出てきた「うるまの煙草」を吸うために沖縄? しかも行くといっても沖縄でAwichのライブがあるわけでもない。しかもそのあと沖縄に興味を持って調べまくったせいで、勢い余ってスキューバダイビングの体験まで予約して
「黒い自分を持て余す」。 新連載『黒い感情と不安沼』第2話のキーワードは、まさにこれです。 ひとの成功を素直に喜べない。 誰かの活躍の報に触れると、「心に障るんです、ザラッと」と、今回の患者さんは言います。 ああ、いい大人なのに、みっともない。 そんな自分を受け入れられなくて、そんな自分が許せなくて、体調までもが悪くなる。 その状態を、鍼灸師のあつこ先生がズバッと解説し、そしてこう言うんです。 ・・・・・・・・・・・・・・・どう言うかは、本編をお読みください! あつこ先
笑顔で拍手しながらも、黒い自分が疼くのがツラい ときどき、「黒い自分を持て余す」と来院される方がいます。「先生、私、心の中が真っ黒なんです。そんな自分が嫌いです」と。 紫(ゆかり)さん(43歳)が当院にいらした理由は胃痛、頭痛、腰痛、便秘に生理痛、むくみなどの症状からでした。 どの患者さんもそうですが、皆さん、はじめは体調不良を訴えます。体のどこかが痛いのですから当然です。でも、そのうちに、ポツリポツリと心の内側を話してくださるようになります。紫さんはこう言いまし
小学館マーケティング局アクセシブル・ブックス事業室で、読書バリアフリー・アクセシビリティ関連の業務を担当する木村匡志と申します。 読書バリアフリーについての意識・関心を少しでも高められればとの思いから、読書バリアフリーをテーマにした社内セミナーや勉強会を集英社で共同開催する取組みを2022年に始めました。 本稿は、セミナーへの登壇を依頼、相談するために訪問した高知の「オーテピア」を取材、同館について読書バリアフリーの取組みを中心にまとめたものです。 高知城のすぐそ
『オリエント急行』を聴いて 片岡見悠さんは現在、横浜の専門学校で陶芸を学ぶ20歳の若者だ。彼には文字の読み書きに困難を抱えるディスレクシア(識字障害)がある。 ディスレクシアとは発達障害の一つで、読むのに時間がかかる、文字を読み間違う、文字を見て内容を理解するのが難しい、文字が歪んで見える、鏡文字になって見える、揺らいで見える——など症状は人によって様々だ。 「僕の場合は特に漢字の読み書きが無理だったんです。カタカナや平仮名は読めるのですが、当時から画数が複雑な漢字
黒い感情と、不安沼。この連載に登場する女性たちは、まんま、自分だなあと思います。いつもわけのわからん不安を抱えていたり、「ちゃんとやらなきゃ誰からも認められない」と勝手に自分を追い込んでイキッたり、自分のルールの外側にいる(しかもなんだか楽しそう)人を「許せん・・・・!」と感じたり。 だから私はいつも背中がこっているし、ときどき足もつる(今朝も寝返りを打った瞬間に左足のふくらはぎがつり、激痛で覚醒した)。そして不安という沼から湧き出るアグレッシブな感情は、やがて血糖値スパイ
「先生! 私、病気でないなら、なんなんですか?」 突然、胸がザワザワしたり、息苦しさを覚えたり、心当たりもなく不安感が押し寄せてくる症状があります。さくらさん(29歳)も、そのひとり。最初の発症は通勤途中の駅のホームでだったそうです。 「急に、胸がギューって感じになって、同時にものすごい不安感が押し寄せてきたんです」 その日を境にさくらさんは頻繁に同じ症状を感じるようになったといいます。当然、さくらさんはあらゆる科をまたいで受診したそうですが、どの医療機関の結果も
◆4章 ヤルカンド「二日月」のレストラン ホータンで見られそうなモスクは回れたので、次の街を目指すことにした。オーストラリア戦略政策研究所のウイグルマップで破壊されたモスクや収容所の多そうな街に目星を付け、莎車(ヤルカンド)という小さな町を選んだ。それらを意味する赤や黄色の丸印が、地図上でとりわけ多かったのだ。 ホータンからヤルカンドまでは、汽車で3時間ほどだった。少し贅沢かとは思ったが、一等の寝台車を予約した。個室の4人部屋の上段ベッドから下を見下ろすと、3人の中高
1. 相手の立場で物事を考える 「まずは名前を名乗れ! 私は目が見えないんだ。あなたが職員かどうか、私にはわからないんだから!」 私が初めて視覚障害のある方と出会ったときに言われた言葉です。あのときの衝撃は、今でも鮮明に覚えています。 当時、私は図書館に勤務し、情報システムと障害者サービスを兼任していました。 カウンターの職員から、「OPAC(Online Public Access Catalogの略。図書館の蔵書目録データベース)の検索について、担当者を呼
◆今月の一首 女のくせに歌人なのにと言うやつらバイブスぶち上げかましますわよ 野口あや子 蒸し暑い夏の金曜日、京都のロームシアターで蹴鞠と雅楽と和歌の披講が行われる和歌の名門「冷泉家」の七夕の舞台「乞巧奠」の幕間、私は猛烈にある単語をGoogleでサーチしていた。最初は「京都 金曜 サイファー」。それでも出てこず、少し範囲を広げて「関西 金曜 サイファー」。一見ヒットしたけれどこれは……違う。あの有名な梅田サイファーのライブイベントだ。定期的に行われていそうな、もうち
「あなたはアッラーを信じていますか?」 ホータンでもこれまでと同様、店先などで出会ったウイグル人と挨拶をしながら中国語で「イスラム教を信仰しているか?」と質問したのだが、ほとんど会話は成立しなかった。中高年以上は中国語をほとんど解さないため元より意思疎通はあきらめていたが、20代ぐらいのある程度中国語が通じる相手に的を絞っても、どうにもうまくいかないのだ。軽い雑談を交わして中国語が通じることを確認した上で、明瞭な発音で「イスラム教を信じていますか?」「モスクに行くことはあ
「モノ」を越えたところへ 「一緒にアクセシブルブックについての本を作りませんか」と共同執筆者の宮田和樹さんに声をかけてもらい、銀座のカフェで最初のミーティングをしたのが2023年1月。実際に取材を始めたのが同年3月。東京・高田馬場駅の近くにある日本点字図書館の見学が、まさに私にとっての「はじめのいっぽ」でした。 昔から馴染みのあるこの町に、点字の図書館があることを初めて知り、さらに中に入れば驚くことばかり。ダダダダとリズミカルな音を立てながら、猛烈なスピードで白い紙を吐