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小学館学芸チームのWEBメディア「読書百景」|紙、電子、点字、オーディオブックなど、本の味わい方は人それぞれ。これからの読書のかたちを提案します|ノンフィクション、エッセイのほか新刊情報も|毎週月曜更新|お問い合わせ→http://p.sgkm.jp/dokushohyakkei

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    エッセイやノンフィクションなど、連載作品をまとめました。ここに収録された作品は、いずれ単行本として出版する予定です。

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西谷格「中国大陸の一番遠いところ」一九八四+四〇 ウイグル潜入記 #1

プロローグ なぜ新疆に行ったのかと考えると、一言でこうだと言い切れないところがある。未知の世界を見てみたかった、と言ってしまえばそれまでなのだが、中国大陸の「一番遠いところ」がどんな場所なのか、旅行がてら見てみるかと思ったのが発端だった。  新疆ウイグル自治区には、2014年に中国に遊びに来ていた日本の友人たちと4日間ほど滞在したことがあった。当時、私は中国・上海に住んでいて、現地在住のフリーライターとして活動していた。旅好きの彼らから新疆に行かないかと誘われて、こういう機

    • 村上千佳(助産師)×コンゴ「レイプは戦争の武器である」紛争地の仕事 #3後編

      女性たちを「家族の恥」に  MSFの助産師・村上千佳によれば、兵士らが女性に性暴力を働くのは、実は性のはけ口などではないという。 「全ては、この土地に世界的に豊かな鉱物資源が埋蔵されていることにあるんです」  武装勢力にとって、鉱物資源に絡む富と利権は絶対に手に入れたいものだ。それにはその土地を支配しなくてはならない。だから先住民を追い出す必要がある。そのための手段として、性暴力が使われてきた。働き手である土地のキーパーソンである女性たちに性暴力を加え、「家族の恥」とす

      • 編集日誌 #5 装丁なんてそんなもの?

         特別な用事がない限り普段は訪れない下北沢は、降り立つ度に装いがかわっています。再開発が加速度的に進んでいる。とはいえ2ヶ月ほどの間に、打ち合わせを含めると10回弱も訪れると、ちょっとは街に馴染みが出てきます。  ブックデザイナーの鈴木成一さんによる「装丁の学校」が8月7日に最終授業を迎えました。作家・横関大さんの新作『誘拐ジャパン』のカバー案を題材に、実践形式で教えるワークショップです。  その模様を同時進行的に伝えた連載を一読してもらえば、全5回の授業がデザイナーやイ

        • 鈴木成一と本をつくる#5後編 「叩かれれば叩かれるほど鍛えられていく」

          タイトルは発明である  この夏の東京は、強烈な雷雨に見舞われることが多かったが、この日も例外ではない。講義中には屋根を叩く雨音と、壁と床を揺らす雷の振動が、会場の緊張感をいやおうなしに高めていく。  初回講義で『誘拐ジャパン』のテーマを「みんなが共犯者」と喝破したのは小守いつみであった。本作の担当編集である柏原航輔も、この言葉を「読んでるあなたも共犯者」と言い換えてオビに採用したほどだ。  本の個性を一言で言い当てた小守は、群衆たちを描いたイラストでその個性を表現してみ

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          鈴木成一と本をつくる#5前編 「みなさんの装丁をいろいろイジりたおしてきましたけど」

          ついに最終授業!  30年以上にわたって1万冊超の本を装丁してきたブックデザイナー・鈴木成一による「超実践 装丁の学校」がついに最終授業を迎える。全5回の学び舎が始まったのは6月24日のことであった。  15人の受講者たちは、小説家・横関大が今秋刊行する予定の小説『誘拐ジャパン』のゲラを読み、その装丁案を提出。鈴木の講評を受けて、ほぼ隔週で開かれる次回授業までにブラッシュアップするという過酷な講義だ。  紙の本の未来が危ぶまれるなか、鈴木は危機感を持って、この試みをスタ

          鈴木成一と本をつくる#5前編 「みなさんの装丁をいろいろイジりたおしてきましたけど」

          村上千佳(助産師)×コンゴ「豊穣な大地ゆえに人びとは血を流す」紛争地の仕事 #3前編

          全派遣18回  彼女は取材場所に、着物姿で現れた。  2024年7月上旬、国境なき医師団(MSF)のオフィス。村上千佳は、クリーム色の生地に、繊細な糸が描く大柄の蒼い花が散りばめられた着物をまとい、翠の紋紗を羽織っていた。村上と初めて出会ったのは15年ほど前になる。対面で会うとなると、今日で5回目くらいだろうか。そのたびに村上の和服姿を目にしてきた。梅雨を清々しく表現しているような色合いに、思わず見惚れてしまった。  村上が1年のほとんどをMSFの現場で過ごす助産師であ

          村上千佳(助産師)×コンゴ「豊穣な大地ゆえに人びとは血を流す」紛争地の仕事 #3前編

          水谷竹秀「なぜ遺族の肉声を伝えなければならないのか」 叫び リンちゃん殺害事件の遺族を追って #3

          インタビューは滞る 「私の娘は殺されました」  目の前にいる人がそんな過去を持っていたら、どんな言葉を掛けたらいいだろう。  ハオさんとの出会いを機に、遺族感情の複雑さについて考えるようになった。その他いくつかの事件の遺族にも取材を重ねた。あれから6年が経つが、その問いに対する答えは未だに見つかっていない。そもそも正解なんてないだろう。ただ、決めていることがひとつだけある。 「お気持ちはわかります」  とは決して言わないことだ。話の内容は理解できても、気持ちまでわか

          水谷竹秀「なぜ遺族の肉声を伝えなければならないのか」 叫び リンちゃん殺害事件の遺族を追って #3

          アンナ・ツィマ「東京塔」ニホンブンガクシ 日本文学私 #4

          ここは昭和?  私は東京タワーを一度だけ見物したことがある。それは2010年の7月、初めて来日した頃だった。東京スカイツリーはまだ竣工しておらず、どんなガイドブックにも東京タワーしか載っていなかった。17歳の私は、テレビ放送や高層ビルの建設などに大した関心を持っていなかったが、東京を高いところから展望したいという気持ちはあった。友達がガイドブックで「境を越える〈東京の象徴〉」として紹介されていた東京タワーを見つけだし、一緒に見に行った。  正直に言えば、大きな期待は抱いて

          アンナ・ツィマ「東京塔」ニホンブンガクシ 日本文学私 #4

          鈴木成一と本をつくる#4 「ブックデザインとはなんぞや」

          オビはチラシではない 鈴木成一の「超実践 装丁の学校」も、初回からはや1ヶ月が経った。ものすごい暑さと湿気に体力が削られる日々だったが、こうも気候が変わってしまうと、客足も伸びないだろうし、本にも悪影響だよなぁと、本屋 B&B(下北沢)に向かいながら、のぼせた頭でぼんやりと思う。  装丁の学校では、小学館から今秋刊行予定のエンターテインメント小説『誘拐ジャパン』(横関大・著)を題材に、実践的にブックデザインを教えている。最終講評で鈴木が最優秀作品に選んだデザイン案は、実際に

          鈴木成一と本をつくる#4 「ブックデザインとはなんぞや」

          愼允翼さん「ルソーの生き方に少しでも近づきたい」ルポ 読書百景 #4後編

          東大にとっても”きっかけ”となったはず 東京大学大学院に通う愼允翼さんは、いま、フランス文学の研究室でジャン=ジャック・ルソーなどフランス思想や哲学を専攻している。  全身が動かなくなる難病の「脊髄性筋萎縮症(SMA)」とともに生きてきた彼は、これまでも学校で「学び」のために様々な工夫をしてきた。たとえば、小中学生のときのテストでは、学校側との交渉によって、介助員に口頭で伝えた解答を代筆してもらう形をとった。また、高校受験では別室でのパソコンの使用や試験時間の延長をやはり学

          愼允翼さん「ルソーの生き方に少しでも近づきたい」ルポ 読書百景 #4後編

          愼允翼さん「本は”孤独”に読みたいけれど」ルポ 読書百景 #4前編

          「本を読む」という行為の持つ意味 東京大学大学院でフランス文学を専攻、思想家のジャン=ジャック・ルソーなどの研究をしている愼允翼さんは、難病の「脊髄性筋萎縮症(SMA)」を患っている。この病気は全身の筋力の低下によって体が動かなくなるもので、普段の生活では24時間の介護が必要だ。彼は右手の先以外が自由に動かせないため、日常生活では20人ほどの介助者がシフト制で彼の介助を行っている。  その日、愼さんへのインタビューは、陽当たりのよい屋外のテラス席で行われた。彼には2人の男性

          愼允翼さん「本は”孤独”に読みたいけれど」ルポ 読書百景 #4前編

          鈴木成一と本をつくる#3 「感性を磨け。自分が喜ぶものに触れよ」

          イラストとタイポが殺し合わないために  梅雨の湿気と連日の猛暑にうんざりな7月上旬だったが、この日は若干暑さが和らいだように感じる。前夜に続き、下北沢の本屋B&Bでは鈴木成一による「超実践 装丁の学校」が開かれた。 今夜は「ラフ講評」後半戦だ。初回講義からわずか2週間余りだったが、どのプランにも試行の跡と、自信の一端が刻まれていた。それに対して鈴木は真摯な批評と的確なアドバイスを打ち返し、発表者たちを静かに鼓舞するのだった。  この夜も、まずはミニ講座からスタートする

          鈴木成一と本をつくる#3 「感性を磨け。自分が喜ぶものに触れよ」

          鈴木成一と本をつくる#2 「デザイナーには勇気も人徳も必要である」

          くちびるを固く結びながら「このデザインは買うに値するのか?」 「イラストとタイポ(グラフィ)が殺し合ってるよ」 「これじゃ、わけがわからないと思うな」  受講生たちの装丁案が次々と講評されていく。その批評は端的で鋭い。前回授業から2週間、受講生たちが愚直に課題作品『誘拐ジャパン』(横関大・著)と向き合い、練り上げられたデザイン案が丸裸にされていく。その光景に、取材者の私までたじろいでしまう。もしもライターで生業をたてる自分の文章が、大勢の前でこんなふうに評されたら・・・・・

          鈴木成一と本をつくる#2 「デザイナーには勇気も人徳も必要である」

          アンナ・ツィマ「迷い姫」 ニホンブンガクシ 日本文学私 #3

          ベルリンの朗読会  私のデビュー作、『シブヤで目覚めて』の最初の翻訳はドイツ語版だった。2019年にそれが出版された際、私は夫と2人でベルリンに赴くことになった。出版社のオーナーに誘われたのだ。同社はけっして大手ではない。数人の文学愛好家が夜も寝ずに必死に小説を訳したり、編集したりしているような印象が強かった。東ドイツ生まれのオーナーは社会主義時代にチェコスロバキアを何回も訪れ、禁断のライブに参加したり、お酒を飲んだりしていたらしい。とにかくチェコに強い関心を持ち、ベルリン

          アンナ・ツィマ「迷い姫」 ニホンブンガクシ 日本文学私 #3

          水谷竹秀「旅館をはじめる」 叫び リンちゃん殺害事件の遺族を追って #2

          賠償金が支払われず  古びた事務所の奥に、ポストカードサイズの写真が立て掛けられていた。   そこには当時、5歳のリンちゃんが紺色の帽子をかぶり、上目遣いに微笑む姿が写っている。父のハオさん、母のグエンさんと一緒に東京タワーを訪れた時の一枚だ。遺影の周りには小さな仏像や香炉が並び、簡易祭壇のようになっている。  6月半ばのその日、私は福島県二本松市の岳温泉にいた。閉館された温泉旅館で、額に汗を浮かべながら地道な作業を続けていた。タイルカーペットの寸法を測り、カッターで切

          水谷竹秀「旅館をはじめる」 叫び リンちゃん殺害事件の遺族を追って #2

          ルポ 読書百景 #3後編 「障害は“持つ”か“ある”か」佐木理人さん

           点字毎日の記者である佐木理人さんが、毎日新聞社に入社したのは2005年のことだった。高校を卒業後、一浪して外国語大学で英語の文法を専攻した佐木さんには、研究者の道に進みたいと考えていた時期もあった。だが、大学院の修士課程でその道は諦め、社会に出てからは障害者の地域生活を支援するカウンセラーや、大学・専門学校で点字の授業の講師をするようになったという。(取材/文・稲泉連、撮影・黒石あみ) 触読校正の面白さ 私は30歳を過ぎるまで、いくつかの仕事を掛け持ちしていました。その

          ルポ 読書百景 #3後編 「障害は“持つ”か“ある”か」佐木理人さん