読書百景
ブックデザイナー鈴木成一さんによる「超実践 装丁の学校」授業レポートを中心に、装丁に関する記事をアップします。
ルポルタージュや調査報道など、取材を伴う作品を中心にアップします。
紙の本、電子書籍、オーディオブック、点字…本の味わい方は人それぞれ。これからの読書のありかたや、読書バリアフリーに関する話題を発信します。
ご自身の経験や研究に基づく作品を中心にアップしています。
本連載は、上海在住経験があり、民主化デモが吹き荒れた香港のルポルタージュなどをものしてきた西谷格氏による、中国・新疆ウイグル自治区の滞在記です。少数民族が暮らす同地は、中国当局による監視が最も厳しい地として知られています。
「モノ」を越えたところへ 「一緒にアクセシブルブックについての本を作りませんか」と共同執筆者の宮田和樹さんに声をかけてもらい、銀座のカフェで最初のミーティングをしたのが2023年1月。実際に取材を始めたのが同年3月。東京・高田馬場駅の近くにある日本点字図書館の見学が、まさに私にとっての「はじめのいっぽ」でした。 昔から馴染みのあるこの町に、点字の図書館があることを初めて知り、さらに中に入れば驚くことばかり。ダダダダとリズミカルな音を立てながら、猛烈なスピードで白い紙を吐
誰にも教えたくない、心の中に隠しつづけたい話はどんな人にでもあるだろう。いつかバレたら、と考えるだけで、冷たい汗が出て心がドキドキしはじめる。だから絶対に誰にも言わない。 例えばこのような話。 夫と一緒に日本に来てから2年、私たちは埼玉県朝霞市から都内に引っ越すことを決めた。新しい住まいは、家主が手入れをしない庭に囲まれ、70年代に建てられた木造アパートの一階だった。冬は非常に寒く、畳や壁の隙間から冷たい風が吹き込む。夏は死ぬほど湿気で暑く、ゴキブリはもちろん、さま
◆3章 ホータンモスクは検索できず 乗客6人を乗せた乗合タクシーは1人65元(約1300円)で、3時間ほどで南疆の小都市・和田に到着した。ウルムチで出会ったウイグル人の男性が、南部のほうが独自の文化が残っていると、言っていたからだ。時刻はすでに午前1時近かった。 バスの停留所で降ろされると、腹が出て固太りした小柄なウイグル人風の男性が「どこまで行きたいんだ?」と声をかけてきた。タクシーの客引きのようだ。ホテル名を告げて助手席に乗ると、ワイルド感のある体臭と腐ったニンニ
『ホール・アース・カタログ』と『暮しの手帖』をヒントに 「『アクセシブルブック はじめのいっぽ』の取材や編集の過程で出会ったけれど、収録できなかったことで、印象に残っているものがあったら書いてみませんか?」 「読書百景」編集長の柏原航輔さんから、共著者の3人にお声がけいただきました。 取材対象から外してしまったものについては「あとがき」に書いた通りです。けれども、こうして改めて振り返る機会を与えられてみると、ほかにも取り上げられなかったものがいくつもあることに思い当た
「偽善者」と切り捨てる思考 私は読書バリアフリーの研究者である。「野口さんは、なぜ読書バリアフリーを研究しようと思ったのですか」とよく聞かれる。「図書館や出版に関する研究者はたくさんいますが、読書バリアフリーの研究とは珍しいですね」と言われることもある。 私が読書バリアフリーの研究を始めたのは、今から25年くらい前のこと(当時は、読書バリアフリーという言葉さえなかった)。そのきっかけは何だったのだろう。いい機会なので、記憶を手繰り寄せることにする。 私は小学校入学
7年前、起きたこと 彼らは今、7年前に起きたあの日のことをどのように受け止めているのだろうか。 当時の記憶を胸に仕舞い込んだまま、成長し続けている子供たちがいる。それはリンちゃんと同じ教室で机を並べ、勉強をともにした同級生たちだ。まだ小学3年生だった彼らにとって、人間の死や人が殺されるという現実はどのように映り、そして理解されていったのか。もしくは理解されなかったのか。 リンちゃんが松戸市立六実第二小学校へ転校してきたのは、3年生の3学期からである。その時