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女性鍼灸師の施術室より:ついつい「私って便利屋さん?」と感じてしまうあなたへ【黒い感情と不安沼】#6

不安。それはときに呪いや妬みといった黒い感情を引き寄せる、やっかいな感情。病気ではないので明確な治療法はないし、周囲の理解や共感も得にくいから沼にハマると苦しくなります。やがて心は疲弊し、血流は悪化、体調は最悪に。心と体は一体だからです。女性鍼灸師のやまざきあつこさんの元には、そんな患者さんがたくさん訪れます。この連載では、8万人におよぶセッションを通じて彼女が導きだした、薬や医療に頼らないで這い出る方法のヒントを伝えます。
☆第1話はこちらから。第5話はこちらから。

サラッと言われた「幹事をやってくれるのはA型だよ!」にウンザリ

 人間って、つくづく分類するのが好きな生き物だと思います。性別、年齢、人種、出身地、星座、干支(えと)などなど……。挙げればキリがないほど、ありとあらゆることを分類し、しかも、勝手にこうだ! と決めつけがち。
 
 例えば、「だよね!?  女子校出身だと思った!」「ひとりっ子はわがままだから」なんて会話、聞いたことある人、多いんじゃないでしょうか。こんな感じで、人間をグループごとにサクッと分けられたら、ある意味、便利かもしれませんが、ひとりひとりは皆、違うわけで。当然ながら、そんなに単純でないのは明白です。
 これらの分類上の「決め付け」が、世間話の中で出る分には、目くじらを立てる話ではありませんが、問題は「決め付け」からの「押し付け」です。
 
 患者さんであるすみれさん(40歳)が困り顔で話してくれたことがあります。
 ある集まりがあって、彼女は毎回、幹事役を引き受けていたそうです。
 指摘されるまでは、特に負担にも思っていなかったそうですが、あるとき、メンバーのひとりから「やっぱり、幹事をやってくれるのはA型だよ!」とサラッと言われたそうです。彼女が、なにげに確認したところ、メンバー内でのA型は自分一人。その瞬間、突然、ウンザリとした気持ちが襲ってきたと言います。メンバーの発言が「A型だから、すみれさんが幹事をやって当然だよね」という響きに聴こえてしまったようです。
 
 これが大抵の場合、言っている本人には悪気はないというのが、また罪深いところ。良いほうに解釈するならば、そのメンバーにとっては、A型の人は任せて安心な人という印象があり、すみれさんを褒(ほ)めたのかもしれません。でも、すみれさんは、そんな風には受け取れなかったようです。
 
  「その場で反論できればよかったんですが、情けないことにヘラヘラしちゃって……。それで、後になって、私って便利屋さん扱いだったんだと思ったら、なんだか、急にモヤモヤしてきちゃったんですよね。今までみたいに、気持ちよくは幹事はできないっていうか……」

「押し付けられて」やるのと「自分で決めて」やるのあいだの壁

 毎回のように幹事役を引き受けてくれる人は、間違いなく、仕事ができ、面倒見が良く、親切で、気働き上手。
 感謝されて然るべき性格で、A型だからやれて当然という話ではないように思いますが、個人の思い込みともいえる感想というのは、如何(いかん)ともしがたいのでやっかいです。

 この場合のすみれさんの解決策は、会を続けたいならば、幹事を続けるか持ち回りにしてもらうかの2択。後日、すみれさんは勇気を出して、メンバーたちに幹事の持ち回りを提案したそうですが、「サポートするよ」「手伝うから言って」などと言われ、「なんだ、幹事に立候補してくれるわけじゃないんだ……」とモヤモヤ指数はかえって上昇。
 
 すみれさんは、メンバーたちの言葉を、「私たちは、その件に関しては何もしません」という風に深読みしてしまったみたいです。それで、余計に「私にばかりに押し付けて!(不公平だ!)」という、憤(いきどお)りのような感情が芽生えたのでしょう。
 
 確かに、すみれさんのように、仕事ができて、かつ、反論するのが苦手な人は、何かと押し付けられることが多いのかもしれません。
 けれども、そこにイライラやモヤモヤを感じたならば、ぜひ、冷静に自分の気持ちを整理してみて欲しいんです。
 
 一番、大切なことは「自分はどうしたいのか?」という気持ち。
 
 すみれさんは、再度、自分に問い直しました。
 
「この会から離れたいか?  続けたいか?」
 
 やめるのはある意味、簡単ですが、答えは「続けたい」でした。
 さらに、彼女は、心に、こう問いかけました。
 
「このモヤモヤは、何が原因か?」
 
 すみれさんは、アレコレ思案していましたが、嫌だという気持ちの中心に「メンバーから幹事を押し付けられている」という思いがあると結論付けたのです。
 
 人間って面白いもので、事の大小を問わず「押し付けられる」と嫌になるんですよね。同じやるにしても、自分で選んで、自分で決めて行うならば納得感があるので、多少の困難も乗り越えていきます。
 
 すみれさんのケースでいえば、「幹事役をやるのは得意だし、みんなのお役に立てるのは嬉しい」「お店選びは自分の引き出しになる」と思えば、やらされ感はゼロ。逆に「押し付けられている」「自分ばかり損な役回り」「当たり前のように思われ、感謝もされない」「負担で仕方ない」と思えば、やらされ感はMAXになるでしょう。このときの、すみれさんの心のシーソーは後者に傾きかけていたようです。
 
 すみれさんは、次に考えました。
 
「どうすれば、ストレスなく会を続けられるか?」
 
 幹事を持ち回りにできさえすれば、今後も楽しく続けていけるかも……という考えに至ったすみれさんは、再度、メンバーに伝えることにしたようです。もし、それでも、メンバーが聞く耳を持ってくれなかったら、そのときはそのとき。また考えようと思ったそうです。

自分の中でグルグルと考えるのは、神経を削っているのと同じ

 後日、すみれさんが教えてくれました。
 
「今度はハッキリと『ね、聞いて!  私、幹事をやるのは嫌じゃないの。でも、毎回やるのは負担なんだよね。だから、もしできたら輪番にしてくれない?』って言ってみたんです」
 
 結果は「幹事、持ち回り制」に決定。
 
 前にお願いした際に断られたと思ったのは、すみれさんの思い過ごしで、メンバーたちの本当の思いも聞けたそうです。
 
「選んだお店が毎回、すごく当たりだったようで、やっぱり喜ばれていたし、感謝もされていたってことがわかりました。そのこともあり、メンバーたちには自分が選ぶよりも、私に任せたほうが確実だという甘えがあったと謝られました。『サポートする』という言葉は、お店選びは自信ないけど、予約や日程調整、集金やらの仕事はやれるという意味だったみたいです。それに、私の前回の言い方だと遠回し過ぎたようで、そこまで幹事を負担に感じているとは思っていなかったと驚かれました」
 
 人って、ときどき、確かめもせずに、その場の雰囲気だけで「きっと、あの人はこう思っているに違いない!」って他人の気持ちを邪推しちゃいますよね。それで、自分の中で勝手に妄想を膨(ふく)らませて、ネガティブな方向に突き進んで、ひとりで抱え込んでしまう。身体にとっては大ダメージです。邪推も疲労の原因になるんです。「あーじゃないか、こーじゃないか」と自分の中でグルグルと考えるのは、神経を削っているのと同じ。そうなると、不眠になったり、頭痛がしたりで、身も心も不調になります。
 
 ならば、すみれさんのように思い切って、腹を割って話すという方法がありますよ。意外とちゃんとわかってくれるし、言えばきちんとやってくれる人は多いと思います。
 自分の中だけでグジグジ悩むのは、精神衛生上好ましいとは言えないので、勇気を出して、自分の思いを伝えることです。それで、わかってもらえなければ、すみれさんが言ったように、そのとき、また考える。「こうしたら、多分、ああなって、ああなったら、こうで……」という自分勝手な未来予測はやめて、「今、できること」をやっていくというのがポイントです。

ツラいのであれば、遠慮なく、有難く、人の助けを借りてみて

 それでもし「サポートする!」「手伝う」と言われたならば、それを素直に受け取るのも大事なこと。人には誠実にお願いされると、その人の希望を叶(かな)えてあげようと動く性質があるのです。もちろん、人によっても、そのお願いの種類によっても、動き方に濃淡は出るでしょう。それでも、基本的には、皆さん、誰かに何かお役に立ちたいと願っているものです。現状がツラいのであれば、遠慮なく、そして有難く、人の助けを借りましょう。
 
 要は、人に任せられることは、お願いして人に任せればいいし、自分でやりたければ、自分がやればいいだけの話。
 
 もちろん、ときには、頭の中が妄想だらけになって、文句で埋め尽くされることもあるでしょう。でもね、そこから抜け出したいのであれば、意識を変えるしかありません。
 
 何をやるにしても、自分主導です。やらされている感で行うのではなく、やりたいからやっている!! という気持ちでいくと、世界が変わります。人の顔色を窺(うかが)ってばかりの自分とは、もうそろそろお別れです。
 
 やりたかったらやる、やりたくなければやめる。嫌だったら、断る。
 答えはいたってシンプルです。
 
「やるか」「やらないか」を選ぶのはいつでも自分。どの道を辿(たど)るのかを決める選択権は、常に自分にあるということは忘れないでくださいね。

●やまざきあつこ
1963年生まれ。鍼灸師。藤沢市辻堂にある鍼灸院『鍼灸師 やまざきあつこ』院長。開業以来30年間、8万人の治療実績を持つ。1997年から2000年までテニスFedカップ日本代表チームトレーナー。プロテニスプレーヤー細木祐子選手、沢松奈生子選手、吉田友佳選手、杉山愛選手などのオフィシャルトレーナーとして海外遠征に同行。プロライフセーバー佐藤文机子選手、プロボディボーダー小池葵選手、S級競輪選手などの治療にも関わる。自律神経失調症の施術に定評がある。著書に『女はいつも、どっかが痛い』(小学館)。 

●鳥居りんこ(とりい りんこ)
1962年生まれ。作家、教育&介護アドバイザー。2003年、『偏差値30からの中学受験合格記』(学研プラス)がベストセラーとなり注目を集める。執筆・講演活動を軸に、現在は介護や不調に悩む大人の女性たちを応援している。近著に、構成・取材・執筆を担当した『1日誰とも話さなくても大丈夫 精神科医がやっている猫みたいに楽に生きる5つのステップ』(鹿目将至著、双葉社)など。鍼灸師やまざきあつこ氏との共著に『女はいつも、どっかが痛い』(小学館)。