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鈴木成一と本をつくる #0 はじめに

 昨年8月末のある夜、スペイン料理屋でパエリアをつついていた時のことでした。隣でワイングラスを傾けていた装丁家・鈴木成一さんが、神妙な顔でポロッと言いました。
「……しかし、若い子にどう伝えていけばいいのかねぇ」

 当時、私が所属していた文芸誌はウェブ化が決まっており、その日は、鈴木さんを編集部員で囲んでの“紙版”最終号の校了打ち上げでした。鈴木成一デザイン室に依頼していた雑誌のAD(アート・ディレクション)も、ウェブ化にあたって交替することになっていました。話題はおのずと出版界の未来へと変わっていきます。

 紙からウェブへの流れは時代の要請によるもの。ウェブデザインには豊かさもあれば可能性もあるでしょう。一方で、「紙」とともに育まれていた装丁という文化は今後、難しくなっていく……だとしたら、次世代にどう伝えていけばよいのか。これまで1万冊超の装丁を手がけてきた巨匠の関心、いや懸念はそこにあるようでした。

 イラストやデザインと違って、装丁を体系的に教える大学や専門学校はほとんどありません。装丁家を目指す若者は、限られたデザイン事務所の扉を叩き、アシスタントなどを経てプロとして独立していくのだとか。もともとが狭き門なのです。そうした事情を聴いているうちに、ふと…。
「鈴木さん、ガチで後進を指導する場を作ってはどうでしょうか」

 本当に無責任に、いやたいした考えもなく、そんなことを私は言っていました(ええと、鈴木さんからやってくれと言われたのだったか。少し記憶が曖昧です)。いずれにせよ、その場は盛り上がり、鈴木さんもまんざらではなさそうでした。

「私、企画しますよ」。もちろん酒場の思いつきに過ぎず、何のあてもありませんでした。次の朝には忘れてしまい……、というより、私に背負えるミッションではないなぁと、意図的に忘却しようと思っていました(鈴木さん、すみません)。しかし、しばらく頭の片隅でモヤモヤしていました。鈴木さんがせっかくやる気になってくれているのに、これでいいのだろうか、と。

 数ヶ月経ったあるとき、かねてより親交があった本屋B&Bの方に相談してみました。その方はいつも私のムチャぶりに応えてくれます。
 鈴木さんの装丁塾、関心ありませんか? 
 即答でした。うちでやりましょう、と。
 そうして実現したのが「超実践 装丁の学校」です。正直、運営はすべてB&Bに任せています。でも、言い出しっぺの責任をとって、「読書百景」では、この希少なワークショップをレポートしようと思っています。 
 初回授業は6月24日です(全5回)。乞うご期待。

「読書百景」編集長
柏原航輔

 「装丁の学校」を受講されたい方は、
下記よりお申し込みください。
(申込期限=2024年6月16日12時まで)