女性鍼灸師の施術室より:他人の成功や幸せが心に障る、ザラつくあなたへ【黒い感情と不安沼】#2
笑顔で拍手しながらも、黒い自分が疼くのがツラい
ときどき、「黒い自分を持て余す」と来院される方がいます。「先生、私、心の中が真っ黒なんです。そんな自分が嫌いです」と。
紫(ゆかり)さん(43歳)が当院にいらした理由は胃痛、頭痛、腰痛、便秘に生理痛、むくみなどの症状からでした。
どの患者さんもそうですが、皆さん、はじめは体調不良を訴えます。体のどこかが痛いのですから当然です。でも、そのうちに、ポツリポツリと心の内側を話してくださるようになります。紫さんはこう言いました。
「最近、思うんです。私、心がザラついているって……」
紫さんの職場では、月末に社員の売上成績が発表される朝礼があるそうです。
紫さんには、自他共に認める営業センスがあり、努力の甲斐があって今では責任あるポストに就任しています。当然、後輩の面倒をみるべき立場ですが、最近はひとりの後輩の活躍が目覚ましいそうです。
「もちろん、お店としては喜ばしいことです。さらに彼女は私が手塩にかけてきた後輩です。もちろん、彼女が成績トップを表彰されるときは笑顔で拍手です。でも、何ですかね、私、悔しいとも違って……。うまく言えないんですが、心に障るんです、ザラッと。こんなこと、誰にも言えないですけど、黒い自分が疼くって感じですかね? そんなときですよね、消えてしまいたくなるのは……」
紫さんだけではなく、これは誰にでもある感情じゃないですかね。嫉妬や妬みという「相手の幸せを呪う」ほどの強い気持ちではなく、単純に「なんか、ザラつく」って感じ。
誰にでも、そんなときはあります。24時間365日完全無欠のメンタルの人はいません。
何故なら、調子のバイオリズムは、瞬間瞬間で変わるから。
紫さんの「心に障る」というのは気が滞っている状態です。この「気」は元気、根気、勇気、やる気といったエネルギーの意味。目には見えませんが、私たちの周りで常に気は動いています。
人は気の巡りが悪くなると、思考がドンドンとネガティブに振れてしまうんですね。特に女性はホルモンの影響をダイレクトに受け続けていますから、ちょっとした心の障りが体調に大きな影響を及ぼしてしまう。
本当に、女性はデリケートな生き物だと思います。
すごく落ち込むわけじゃない、でも、なんかモヤモヤしたり、ザラついたり。思えば、人生は、その繰り返しかもしれませんね。
私は天使にはなれませんって、真っ先に降参
私が紫さんに、少しずつ提案していった方法があります。
まずは、黒い自分を赦(ゆる)そうよ。
例えば後輩がドンドン輝いて、反比例するかの如く自分の輝きが削(そ)がれる気がしたら、その気持ちごと、マルっと、くるんじゃえばいいんです。
「ああ今、私、あの子にちょっとだけ嫉妬しちゃってる」ってね。
人間には感情があるから、マイナスな感情が出ても当然だよねって、私は天使にはなれませんって真っ先に降参ですよ。一番大切なことは、自分だけは自分を肯定してあげること。
皆さん、自己否定に走り過ぎです。自分が自分を否定するほど、ツラい話はないんです。それは人から否定されるより、何百倍もツラいことだから。自分のことは全部、全部、あなた自身が受け入れてあげてください。極論を言うならば、自分がすべてです。
さらに、私に言わせればこうです。「人の成功を羨(うらや)んで何が悪い!?」
いいんです、嫉妬も含めて負の感情も自分の気持ちです。自分の気持ちを一旦、丸ごと受け入れることは、あなたが思うよりも大切なんです。自分を否定しちゃダメですよ。
あなたの感情は、1秒ごとに、更新されている
そして、次はこれです。
そこに、いつまでもいるな!
気は常に動いていますし、あなたの感情も1秒ごとに更新されます。たとえ、良からぬ感情に支配されたとしても、それはほんの一瞬のこと。
いつまでも、その感情を引きずらない練習をしましょう。
モヤモヤを追い出すイメージで、頭を軽く左右に振ってみてください。次に、ゆっくりとゆっくりと首を回す。首はあなたの心と同じく、とてもデリケートですから、丁寧に扱ってあげてくださいね。
大丈夫な予感がしてきたら、小さな声で言いましょう。
「ヨシッ! 次、行くよ! 次!」
そして、いつもよりは、少しだけ軽快に歩き出してみてください。それだけでも、あなたの周りを流れている気が変わってきますよ。
紫さんは鍼治療で調子が上向きになるにつれ、「うん、これは後輩の努力だよな。私も心機一転する気持ちでがんばろう!」というふうに考えられる日も増えたと笑っています。
それで、もう、十分すぎるほど、立派だと思います。
●やまざきあつこ
1963年生まれ。鍼灸師。藤沢市辻堂にある鍼灸院『鍼灸師 やまざきあつこ』院長。開業以来30年間、8万人の治療実績を持つ。1997年から2000年までテニスFedカップ日本代表チームトレーナー。プロテニスプレーヤー細木祐子選手、沢松奈生子選手、吉田友佳選手、杉山愛選手などのオフィシャルトレーナーとして海外遠征に同行。プロライフセーバー佐藤文机子選手、プロボディボーダー小池葵選手、S級競輪選手などの治療にも関わる。自律神経失調症の施術に定評がある。著書に『女はいつも、どっかが痛い』(小学館)。
●鳥居りんこ(とりい りんこ)
1962年生まれ。作家、教育&介護アドバイザー。2003年、『偏差値30からの中学受験合格記』(学研プラス)がベストセラーとなり注目を集める。執筆・講演活動を軸に、現在は介護や不調に悩む大人の女性たちを応援している。近著に、構成・取材・執筆を担当した『1日誰とも話さなくても大丈夫 精神科医がやっている猫みたいに楽に生きる5つのステップ』(鹿目将至著、双葉社)など。鍼灸師やまざきあつこ氏との共著に『女はいつも、どっかが痛い』(小学館)。