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編集日誌 #3 情熱と執念

 装丁家・鈴木成一さんが”本気”で後進を指導する「装丁の学校」、そのプレイベントとなるトークショーが去る6月13日、本屋B &Bにて開かれました。

  良い装丁とは何か。鈴木成一さんや、同じく著名なブックデザイナーの水戸部功さん、albireoさん(西村真紀子さん・草苅睦子さん)が実際に本を手にしながら、各々の装丁論を披露しあう濃密な時間でした。

 終盤のQ&Aでは参加者から、装丁家が編集者に求める姿勢についての質問がありました。鈴木さんはずばり情熱ーーつまりは編集者はこの本にいかなる想いを賭しているのか、そこを一番重視していると答えました。

 40年近いキャリアで、1万冊を超える本を装丁してきた鈴木さんは、あらゆる編集者と仕事をしてきたはずです。経験やアイデアではなく、編集者の熱量こそが装丁家を動かす。その答えに、襟を正さぬ編集者はいないでしょう。

 さて本日より、ノンフィクション作家・水谷竹秀さんによる連載「叫び リンちゃん殺害事件の遺族を追って」がスタートしました。凶悪事件によって異国の地で愛娘を亡くしたベトナム人、レェ・アイン・ハオさんのドキュメントです。

 水谷さんは事件を取材するなかで、ハオさんが〈愛娘を失った悲しみに打ちひしがれる裏で、内に秘めた揺るぎない芯の強さを感じた〉そうです。それを水谷さんは「執念」と記しました。「被害者遺族」という言葉では括れないハオさんのたしかな歩み。そこから曰く言い難い力を受け取ると同時に、リンさんの短すぎた生に思いを馳せざるを得ません。

 事件から7年。リンさんのご冥福を心よりお祈りします。

7回忌を迎えた日、水谷さんとともに事件現場を訪ねました。

「読書百景」編集長
柏原航輔